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2006年毎日写真コンテスト入賞作品

【総評】 写真家・江成常夫
  今年も政治、経済、社会、内外ともに大きなうねりのもと、一年がくれようとしている。国内の政治の世界では、賛否ともにかまびすしかった“小泉劇場”が幕を閉じ、経済面ではマネーゲームを演じた“守銭奴”に司直の手が回っている。社会面では記録的な災害と親による子どもの虐待、殺人、子ども同士のいじめや自殺が連続して起きている。
 蔓延する政治不信、拝金主義や人命軽視に対し、多くの日本人は表層を伝えるだけで終わりがちな、新聞やテレビのニュースに、目を配るだけで、この深刻な社会的病理を、あまり深くは受け止めず、日ごとの生活に追われ忘れがちである。
 一方、写真の世界に目を向ければ、デジタル化が急速に普及し、携帯電話に付属された“デジカメ”までが参入し、さらに写真が現代美術に取り込まれるなかで、表現としての写真の本質が見えにくくなっている。
 すでに70年前になるが、写真評論家の故伊奈信男氏は、写真雑誌『光画』の創刊に際し、表現としての写真について、次のように指摘している。
 「写真芸術は、たとえその歴史は若く、伝統は短いとは言え、決して他の芸術部門に隷属するものではない。(略)写真こそは最もこの社会生活と自然とを記録し、報道し、解釈し、批評するに適した芸術である」。
 日本で最古の歴史と内閣総理大臣賞を有し、記録性を重んじた「毎日写真コンテスト」にとって伊奈氏の論評は今なお示唆に富んでいる。
 今回の応募作では、グランプリ部門で内閣総理大臣賞を獲得した、佐々木公子さんの「祭日」のように祭りの日の一瞬に、日本人の庶民の有り体を凝縮した作品や、同文部科学大臣賞、渡辺賢二さんの「黄昏」に見られる今の飽食社会に潜在する、暗部を浮き彫りにした、優れた作品が目を引いた。しかし、全体では表現というより、風景や催しごとのような被写体を、趣味や癒しの対象として写し撮る域から出ていない写真が少なくなかった。
 ここでもう一度、伊奈氏の指摘を反芻すれば、表現を目的としてカメラを持つ者は、主体的であれ、ということである。主体性とは被写体である対象と、メッセージを持って向い会うこと。人間や人間の集合体である社会に対し、人の幸せや社会の本来のありようを問うこと。結局は邪念を廃し、真摯に対象にレンズを向けることが、優れた作品を生み出すキーワードとなる。
 それでは具体的に優れた写真とは何かーーその一例が今年の新聞協会賞に輝いた、毎日新聞の佐藤賢二郎記者が捉えた『パキスタン地震』と題した作品である。一連の受賞作のなかに壊滅状態の地で、救援の食料を受け取ろうとしている少女の写真がある。瞳が光り、祈るような仕草の少女の姿は輝くように美しい。視覚言語としての写真は見る人の心を揺さぶることである。その条件を佐藤記者は「美しさ」だ、と記している。美しさは対象への優しさ、慈しみの心に通じる。優れた写真は豊かな心の主体性から生まれることを、受賞作は教えている。
 
グランプリ部門

内閣総理大臣賞 「祭日」佐々木公子
【評】祭りはいつの時でも、日々の雑念を払拭し、ハレの心にしてくれる。大人は祭りの出し物に幼少の時を重ね、子どもは日常にはない夢をかき立てられる。腕を組み視線を向ける中年のおとうさん。模擬店ものを手にする父子。真ん中のペットがあいきょうを添え、祭りにしてはちょっと沈んだ空気をなごませている。左端の少女のファッションにも今が写り、引き締めている。画面いっぱいに詰った視覚言語による物語のリアリティーは、写真だけが持つスナップショットの強さである。都市と違った祭りのなかに、庶民の小さな幸せの一時が色濃く浮き出ている。
文部科学大臣賞 「黄昏」渡辺賢二
【評】政治が「美しい日本」を声高に謳うなか、今の日本は勝ち組、負け組に色分けされ、マネーゲームに象徴されるように“悪い奴ほどよく眠る”社会になりさがっている。企業競争に破れ、管理社会に疲れて自殺に走る人は年間三万数千人に及んでいる。組まれた三枚の写真には不安な表情や、明日が見えない顔が写り、常套から外れたトリミングが、その日の糧にあえぐ人々の心奥を暗示させている。作者は飽食社会に顕在する“暗い影”に、鋭い視線を向け、社会時評とも言える作品に仕上げている。
毎日新聞社賞 「見物」小畑一弘
【評】近年とみに進む少子高齢化は、明日への“影”を予測させる。そうした時代に、これはまた逞しくもたのもしい父子像である。子どもの肩車は人の集まるところではよく見るが、子どもを前にまで抱えた父親の姿は珍らしい。親の子どもへの虐待や殺人までが、後を絶たないご時世とあれば、ほほえましくも父性愛の模範図にも映る。祭りを正面からではなく、脇役の見物人にレンズをむけた機敏さが幸運をもたらした。バックのアンバランス空間も不思議な空気感をかもして新鮮味がある。
毎日新聞社賞 「部活を終えて」中村薫
【評】少年少女のいじめが横行し、追い詰められての自殺が連日のように伝えられている。戦後の日本は、心の価値を軽視し、経済を至上価値とした教育がなされてきた。それが受験地獄を生み、他者への慈しみを忘れた人間をつくり出してきた。金網にかかったユニフォームと履物入れのシューズが生徒たちの存在を代弁している。と同時にアンダーな露出で浮き立たせた、生徒一人一人の“モノ”が、病める教育現場を告げているようにも読める。生徒の実像を表に出さず、教育現場の今を視覚化した作者の表現力が光っている。
日本報道写真連盟賞 「海女さん」萩原清春
【評】人生、山あり谷ありの幾星霜。女性は年齢(とし)を重ねるごと強くなる。平均寿命が男性より女性のほうが遥かに長いのは、神が与えた摂理なのだろう。笑み満面のおばあちゃんの表情からは、カメラを持つ作者との遣り取りまでが聞こえてくる。またピンセットの先の干物が、ユーモアを掻き立て、得意げなおばあちゃんの心の内をも語りかけてくる。正面から向い合った直球の強さ。こういう写真は屁理屈を並べるより、見る側の想像力にまかせたほうがよさそうだ。
日本報道写真連盟賞 「路地の寸描」白鳥智通
【評】人の世にはいつの時代でも「銀座」のように、きらびやかな人の営みと、「路地」に見られる庶民の生活がある。文明社会のなかの表通りに対し、裏通りにはどこか心をなごませるところがある。それは管理された日課から解放されたプライベートな自由な場だからだろう。路地は季節の折々に重ね、照る日、曇る日に即応した表情を見せてくれる。軒下だろうか。無数に置かれた植木鉢。寝具が天日干しされた路地のたたずまいからは肩を寄せ合って生活する人々の、息遣いまでが伝わってくる。枚数をもう少し絞りたかった。
デジタル部門
最優秀賞 「狐の嫁入り」川上力
【評】コンピューターを介して出力するデジタル写真は、バーチャルな世界を自由自在に描き出す力がある。「狐の嫁入り」は日本に古くから伝わる民話の一つである。民話には時代を越え、日本人のロマンを掻き立てる。現代のように文明化され、殺伐とした社会であればそれだけ“心のふる里”とも言える民話は、人の心を和ませる。ここでは人力車に乗った現代の嫁入り夫婦に仮面をかぶせ、うっそうとした風景を重ね合わせることで、民話の視覚化に成功した。民話を現代にアレンジさせたモチベーションが光っている。
優秀賞 「アクシデント」久保順行
優秀賞 「怖い!」大城保行
ファミリー部門
JR東日本賞 「マウイの笑顔」宮内勇
優秀賞 「俥屋さん走る」紅露雅之
優秀賞 「千円お預かりしました」大橋志ほこ
優秀賞 「孫たちの喜び」芳賀久美
優秀賞 「戦士」尾形賢治
優秀賞 「美ら海」平良華織
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